会社はどこまで不祥事防止のためにお金と時間を費やさなければならないのか
前回は、会社法改正の中間試案に絡めて、社外取締役によって会社のガバナンスを強化するという話をしました。今回は、不祥事防止のためにガバナンスをどこまで強化し、どこまで費用を費やさなければならないのかについて話をしたいと思います。
有名企業の大きな不祥事が明らかになるたびに、規制によるガバナンスの強化が必要であると叫ばれます。
しかし、その不祥事が果たして規制の強化が足りないために生じたものなのか、規制を強化すれば防止できたのか、仮に規制強化で防止できるとしても、具体的な規制強化を導入するためにどれほどの費用がかかるのかという視点を欠いてしまうと、会社にとって無用かつ過大な規制を科してしまうことになり、会社の経済活動を萎縮させかねないことには注意が必要です。
この点、会社不祥事に関連した裁判で、経営陣の内部統制システム(誤解をおそれずに言えば会社不祥事の発生を防止する管理体制)の構築義務(会社法348条4項、362条5項)違反の有無が争いになった事件等でも一定の限界を設ける判断がなされています(最判平成21.7.9、大阪高判平成18.6.9等参照)。
すなわち、会社不祥事の発生を防止する管理体制をどのように構築するかにつき、経営陣には広い裁量があり、通常想定し難い方法による不祥事であって、その発生を予見できないような場合には経営陣に義務違反はないと判断されています。
これは、経営陣にとっては自らがどこまでの義務を果たせばよいかの指針を与えるものであり、無条件に近いかたちで責任を問われるおそれがないことを示したものといえます。
それに加え、過度に会社不祥事の防止に力を入れてしまい、本来の事業活動を不当に萎縮させてはならないというメッセージも読み取れると思います。
不祥事の発生を防止するため、規制強化は望むべきものであると考えていますが、会社の本来の事業活動を不当に制約しないためにも、どこまでの強化をするのか、意味のある強化なのか、費用対効果はどうなのかという点の熟慮が必要と言えます。
P.S
最後に一言。不祥事と呼ばれるものの中にも悪質なものとそうでないものがあると思いますが、結局はリスクとリターンで判断することになると思います。不祥事によって失うもののリスクと不祥事によって得られるリターンを考え、経営陣がどちらに重きを置いているかだと思います。例えば、失うものは自己の倫理観や遵法精神や信用であったりする反面、得られるものは利益や不祥事が発覚しないことによる信用維持がすぐに思い浮かびます。
このように考えると、後々不祥事と呼ばれる行為をするか否か、その行為を行った場合にそれを公表するか等、不祥事にまつわる行動も突き詰めれば経営判断のひとつなんだろうなと感じています。
ということは、法律や裁判所が何と言おうと、経営陣の経営に対する考え方や人となりが不祥事防止のために最も重要だと思います。
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